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広島家庭裁判所呉支部 昭和33年(家)568号 審判 1958年12月15日

申立人 北川茂春(仮名)

事件本人 山戸アキ(仮名)

未成年者 山戸修(仮名)

主文

事件本人が、その子山戸修に対して有する親権の喪失を命ずる。

理由

申立人は主文と同旨の審判を求め、その原因として(1)事件本人の親権に服する山戸修は、申立人と事件本人間の嫡出の子である。(2)申立人と事件本人は広島家庭裁判所呉支部の調停で昭和三一年二月○○日離婚し、その際長男博を申立人が、二男修を事件本人がそれぞれ監護養育しかつ親権を行うことになつた。(3)離婚後間もなく、事件本人が監護することになつた二男修も申立人方で生活することを望むようになつたので、当時申立人が引取り監護して今日に至つている。(4)事件本人は親権者の地位を濫用して昭和三三年九月○日呉市○○町○丁目所在○○○○株式会社の為に修の主要不動産である宅地及び家屋に極度額二〇万円期限後元金一〇〇円につき日歩九銭の損害金を附する約ある根抵当権を設定して借財をし、この金員は情夫大川某との媾曳のために消費されたものと思われる。(5)事件本人は養母山戸ヒロの不動産を養母の承諾なく自己名義に移転し消費しようとしている。このように事件本人は未成年者修に対する親権を濫用しかつ著しく不行跡であるから親権喪失の宣告を求めるといい、事件本人は請求棄却の審判を求め、申立人の主張する事実中(1)(2)(3)の事実は大体においてこれを認める。未成年者修の不動産を担保として○○○○株式会社に極度額二〇万円の根抵当権を設定し、これにより金一七万円の債務を負担した事実は認めるけれども、この金員は無意味に消費したものではなく、養家が小農で経営が困難であるため広島方面で理髪業を営もうと志し、その資金にするつもりで借受けたのであるが志を得なかつたものである。養母の不動産の一部を自己名義としたことは認めるけれども、それは養母ヒロの承諾に基くものであつてこれを消費する目的で名義を移転したものではないと陳べた。

そこで当裁判所は申立人が援用する当庁昭和三三年(家イ)第五〇一号親権者変更事件の申立書及び添付戸籍謄抄本、住民票抄本、不動産登記簿謄本、不動産移転登記申請書謄本の各記載、証人平川義孝同荒井太郎同西山貞夫、参考人山戸ヒロ、申立人及び事件本人の各供述調書の記載を総合し次の事実を認定する。(1)申立人と事件本人は、昭和一八年一二月○日婚姻し、昭和二〇年一月○日長男博を、同二四年一月○○日二男修を出産したが、申立人に情婦ができたため事件本人の行状も崩れて情夫を生じ遂に家庭が破壊し、昭和三一年二月○○日広島家庭裁判所呉支部において調停による離婚が成立し、その際長男博は申立人が、二男修は事件本人がそれぞれ監護教育親権を行うこととなり、親権者に引取られた。しかし二男修は間もなく申立人方で生活することを好むようになり以来今日に至るまで事実上申立人が兄博と共に監護教育している事実(2)事件本人は離婚後養母ヒロと共に生活したが性関係が紊れ、農事に励まず外出勝であつたため、養母ヒロは事件本人を相手方として昭和三一年七月一九日当庁に養子離縁、子の親権の辞任、不動産所有権移転の調停を申立て、同年一〇月○日事件本人所有の○○郡○○町大字○○字○○一、二〇〇番地田一反四畝歩外二筆反別合計一反七畝六歩の田地の所有権を養母に譲渡する調停が成立し、この田地は一度養母名義に登記されたのであるが、この不動産の名義が昭和三三年六月○日再び事件本人に贈与名義で移転し○○○農業協同組合に対し金一四万二千円の抵当権を設定したため、養母ヒロは当庁に所有権移転登記抹消の調停事件及び事件本人に対する養子離縁調停事件を提起し現に繋属中である事実(3)事件本人は昭和三三年になつてからも、かねて昵懇である大川信次との交りのため養家に落着かず、数ヶ月に亘つて所在が不明であつたこともあり、この間昭和三三年九月○日未成年者修の親権者として、未成年者唯一の不動産である別紙目録記載の土地家屋を目的として、金融業○○○○株式会社のため極度額を金二〇万円とする貸越契約上の根抵当権を設定し、これによつて金一七万円の借財をし自らこの金員を費消したものである事実等これである。

以上認定の事実が未成年者修に対する親権の濫用又は著しい不行跡に当るかどうかを考えるに、先づ(3)に認定の事実につき親権者が未成年者の財産を管理するに当つては、未成年者の利益のために最も深い注意を払わねばならぬのであつて、未成年者の財産を担保として借財をするようなことは、堅実な企図と綿密な計画とによつて未成年者に損害を及ぼす危険のないことを要するし、その上少くとも生活上の利益が未成年者に共通のものがあるような場合でなければ許されないものと考えられる。しかるに未成年者は既に昭和三一年春頃から申立人方で生活し、未成年者に対しては現在まで事件本人が何等経済上の負担をしていないのであるから、事件本人の本件借財は未成年者に直接にも間接にも何等の利益をももたらすものではない。そればかりでなく、この借財は、事件本人が男性との長い外泊生活のため消費されたものと推認されるし、仮にそうでなくて事件本人がいうように理髪業経営の資金に当てるためであつたとしても、何等の成算もなく先づ多額の借財のために未成年者の財産に抵当権を設定しその借財による金員は悉く無意味に消費した結果に終つた本件にあつては、到底正当な親権の行使として認めることのできないところである。そうだとすれば既にこの点において親権の濫用ありと断じなければならない。次の上記(2)の認定事実につき、養母ヒロ、事件本人、未成年者修の各所有する山戸家不動産の合計は、田二段三畝七歩、畑一反二畝二歩、山林三段七畝一六歩であることは、当庁昭和三〇年(家イ)第一九〇号申立人及び事件本人参加人山戸ヒロ間の離婚事件の調停調書によつて明かである。事件本人が真面目に農業に従事すれば二人三人の家族は辛うじて生活し得るものと認められるにかかわらず、事件本人が屡々家出して農業を顧みず、前記のように短期間に○○○農協に対して一四万二千円、○○○○に対して一七万円合計三〇万円に及ぶ資産不相応の借財をして無意義に消費し一家経済破綻の素因を作り、老齢な養母を不安に陥れながら今なほ迷夢の中をさまようている事件本人の行動は、親権者として著しい不行跡であることを免れ得ないものと判断する。そこで本件申立を理由ありとし家事審判法第九条第一項本文甲類第一二号により主文の通り審決する。

(家事審判官 太田英雄)

(別紙目録 略)

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